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福岡高等裁判所 平成7年(ネ)956号 判決

控訴人

有限会社日本電子産業

右代表者代表取締役

小柳晴郷

右訴訟代理人弁護士

田中義信

川副正敏

被控訴人

長崎市

右代表者市長

伊藤一長

右訴訟代理人弁護士

川口春利

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実および理由

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し金八五〇〇万円及びこれに対する平成五年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、被控訴人の職員が、いずれも偽造された、印鑑登録廃止届、印鑑登録申請書及び印鑑登録証明書交付申請書に基づき、偽造印鑑につき印鑑登録をして印鑑登録証明書を交付したことについて、控訴人が、右印鑑登録証明書を持参した者を真の土地所有者と誤信して土地を買い受け、売買代金の名目で金員を詐取されたと主張し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償として、被控訴人に対し、支払済みの売買代金相当額八〇〇〇万円及び弁護士費用相当額五〇〇万円、並びにこれに対する本件の訴状が送達された日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。

一  争いのない事実等

1  甲野(以下「甲野」という。)は、平成二年四月二七日、長崎市役所土井首支所(以下「土井首支所」という。)において、偽造した乙山(以下「乙山」という。)名義の無線従事者免許証(以下「本件免許証」という。)を提示して、乙山本人であるかのように装い、作成名義人を乙山とする、印鑑登録廃止届、印鑑登録申請書及び印鑑登録証明書交付申請書を提出してその旨の、虚偽の届出及び各申請をした(以下、右三通の書面による申請等の行為を総称するときは「本件申請」という。)。田畑祐子(以下「田畑」という。)及び柴原洋介(以下「柴原」という。)は、土井首支所で印鑑登録・証明事務を担当する被控訴人の職員であるが、同日、本件申請を受理し、甲野を乙山本人と誤信して、かねて乙山が登録していた印鑑の印鑑登録廃止手続と甲野が持参提出した偽造印章の印鑑(右印章を押印した印影)の印鑑登録手続を行い、甲野に対し、新しい印鑑登録証と右の新規に登録された印鑑の印鑑登録証明書を交付した。(争いがない。)

2  控訴人は、平成二年五月一日、乙山所有名義の長崎市〈番地略〉二〇、田、二四〇六平方メートル(以下「本件土地」という。)につき、同年四月二七日の売買(条件 農地法五条の許可)を原因とする条件付所有権移転仮登記を経由した。ところが、乙山は、同年五月一八日、右仮登記の登記申請手続は何者かが乙山になりすましてなしたものであるからこの仮登記は無効であると主張して、長崎地方裁判所に、控訴人を被告とする右仮登記の抹消登記手続を求める訴えを提起し(平成二年(ワ)第一八二号)、同裁判所は、同年一一月三〇日、右仮登記の抹消登記手続を命ずる判決を言い渡した。控訴人は、右判決を不服として福岡高等裁判所に控訴したが(平成二年(ネ)第八〇八号)、当事者双方とも第一回口頭弁論期日に出頭せず、平成三年六月二〇日、控訴の取下げがあったものとみなされて右判決は確定した。そして、同年七月一六日、右仮登記は抹消された。(甲第一三、第二六号証、乙第二九号証、第四七ないし第四九号証)

二  争点

1  本件申請に係る印鑑登録・証明事務を行うにつき、田畑及び柴原に国家賠償法一条一項にいう過失があったか。

(控訴人の主張)

以下のとおり、田畑及び柴原には過失があった。

(一) 長崎市印鑑登録及び証明に関する条例(昭和四五年三月三一日条例第二号。以下「条例」という。)六条一項は、「市長は、印鑑登録の申請があったときは、当該申請が確実に本人の意思に基づくものであると認めたものを除き、郵便その他市長が適当と認める方法により当該申請を行った者に対して自己の意思に基づくものかどうかを文書で照会(する。)」と規定し、長崎市印鑑事務取扱い要領(昭和四九年一〇月一日施行。以下「要領」という。)は、右の「当該申請が確実に本人の意思に基づくものと認めたもの」に該当する場合として、登録申請者本人が窓口に出頭し、①官公署発行の写真貼付の各種免許証(自動車運転免許証等)及び官公署、会社、工場等が発行した所定様式による写真貼付の身分証明書等の提示があったとき(貼付された写真には割印が押され原則として三年以内のものに限る)、あるいは②市長、助役、収入役、部長、課長、支所長、主管課(支所)の係長、主任及び印鑑事務担当者が面識があり、申請者本人を熟知しているとき、のいずれかの方法により本人であることを確認できた場合を原則とするとしている。

(二) 右の趣旨からすると、窓口担当者としては、右①の各種免許証との照合による本人の同一性及びその真意確認をするには、提示された免許証につき、自らがその体裁や記載内容についての知識を十分に有しており、それが偽造のものでないかどうかの点検を確実に行うことができるようなものでなければならず、もし、そのような免許証とは異なる種類の初めて見る免許証である場合には、そもそも、かかる免許証による本人の同一性確認をすること自体が許されないというべきである。仮にそこまで要求されないとしても、少なくとも、かかる免許証の提示があった場合には、担当職員としては、申請者に対して、自分がその体裁や記載内容を熟知していて、偽造の有無をチェックできるような他の免許証を持っていないかどうかを確認し、もし、それを携帯していないようであれば、提示された免許証に記載された発行官公署に架電するなどして、真正な免許証の体裁や記載内容を確認し、さらには免許証番号が真実のものであるかどうかを照会すべきである。

(三) 本件申請において、田畑及び柴原が、甲野を乙山本人と誤信したのは、本件免許証を見て、それが真正なもののように見え、貼付された写真と甲野が同一人であると認められたというに尽きるところ、両名とも、無線従事者免許証を見るのは初めてであったから、これが真正であるかどうかを判断できなかったはずである。そうであれば、両名としては、乙山を装った甲野に対して、例えば自動車運転免許証を持っていないかどうかを確認し、これを携帯していなかったなら、本件免許証の発行官公署である九州電波監理局に架電して、真正な無線従事者免許証の体裁や記載内容を確認したり、免許証番号を告知して本件免許証が真実のものであるどうかを照会すべきであり、このような簡単な調査さえしておれば、本件免許証が偽造のものであることを容易に知ることができたはずである。しかるに、両名はこのような調査確認を一切しなかったのであるから、その注意義務懈怠は明らかである。

なお、この点に関し、当時長崎市が無線従事者免許証の見本を備え置けば、田畑及び柴原において本件免許証が偽造のものであることを容易に看取できたことは明らかであるから、長崎市(長)も過失を免れない。

(四) しかも、本件免許証には、①打込文字・数字の種類が、真正なものは一種類であるのに対し、四種類であること、②打込文字の大きさが、真正なものに比べて、一ミリメートル未満の範囲ではあるが、微妙に異なっていること、③生年月日欄の数字が一桁の場合、真正なものは「06」などと表示するのに対し、単に「6」と記載している箇所もあれば、「06」と表示している箇所もあるなど統一性がないこと、④生年月日欄の「日」の文字が重複していること、⑤押出スタンプによる割印は写真と台紙にかけてなされるが、割印があるのは写真部分だけであって、台紙にはそれがないこと、⑥ラミネート加工がされていなかったことなど、真正な無線従事者免許証とは多数の相違点があったから、このような不自然な点を少しでも認識すれば、当然に甲野に対し、本人の同一性に関し、例えば家族構成、家族の氏名、氏名の文字、乙山の年齢や生年月日等を質問したり、登録印鑑と印鑑登録証の両方を紛失した状況を確かめたりすることはもとより、九州電波監理局に対して免許証番号の照会をするなどし、これによって、甲野が乙山本人でないことは判明したはずである。さらに、本件免許証の発行年月日は昭和五九年一月一九日と記載されていたところ、本件申請は平成二年四月二七日のことであるから、要領が規定している免許証や身分証明書の年限である三年をはるかに超えていたし、また、本件免許証に貼付された写真は本件申請直前に撮影されたと推認されるのであり、提示された免許証は発行年月日から六年以上も経過していたのであるから、本来であれば、写真と目の前の甲野に一見して年齢差を感じるはずであった。

(五) 条例によれば、登録印鑑と印鑑登録証の両方を紛失した場合には、印鑑登録証紛失届と印鑑登録廃止届を提出しなければならないのに、柴原は、印鑑登録廃止届のみを提出させて、印鑑登録証は未回収扱いにして印鑑登録の抹消手続をするということで済ませている。条例が右の二つの届出をするよう規定したのは、本来、両方の届出自体が異なる趣旨のものであるうえ、登録印鑑と印鑑登録証の両方を紛失したとして、新規に印鑑登録の申請がなされる場合には、他人による虚偽の不正な印鑑登録がされるおそれもあるところから、慎重な手続を踏むこととしたものである(他人が本人になりすまして申請する場合には、もともと自分に関することがらではないから、誤った記載をする可能性もあり、これら複数の書面に記載させることによって、多少なりとも、かかる不正な印鑑登録を防止することができる。)。しかるに、柴原がこのような慎重な手続をとらなかったということは、同人のとった登録・証明事務が、全体としておざなりで極めて事務的、形式的なものであったことを推認させる重要な事情である。

(六) 甲野は、印鑑登録廃止届の世帯主氏名欄に「乙山春夫」と記載したのであるが、柴原は、住民票上の世帯主は乙山春男であったため、そのことを甲野に教えたばかりか、自ら「春夫」を「春男」に訂正した。一方、印鑑登録申請書の世帯主氏名欄は、甲野が書いた「春男」のままであった。本件のような、登録印鑑と印鑑登録証の両方を紛失したことを理由とする再度の印鑑登録申請は、不正の疑いを入れる余地が十分にあるから、甲野が世帯主の名前を間違って記載したということは、同人が乙山本人ではないのではないかとの疑いを抱くに足りる極めて重要な徴憑であったはずである。したがって、柴原としては、住民票上の世帯主を教示することをせずに、「世帯主は本当に春夫さんですか。」などと質問して相手の反応を見るとか、世帯主を教示するとしても、その世帯主と乙山春夫との続柄や世帯主を間違えた理由を聞くといった程度のことは行うべきであった。また、春男という名前は珍しいものであるから、柴原自身が書くのではなく甲野に書かせるとか、仮に柴原が書くすれば、その読み方を甲野に質問して相手の反応を見るといったことは、最低限度履践してしかるべきであった。条例一六条が、「市長は、印鑑の登録又は登録証明の事務に関し、その命じた職員をして、必要な範囲において、関係者に対して質問し、又は必要な事項について調査させることができる。」と規定していることからしても、右のような質問は、まさに、右規定という「必要な範囲」に属することがらである。

(被控訴人の主張)

以下のとおり、田畑及び柴原には過失はなかった。

(一) 登録申請者本人が窓口に出頭して提示する各種免許証には様々な種類のものがあるから、印鑑登録・証明事務の担当職員に、その体裁や記載内容だけで、偽造のものでないかどうかを判断できる知識を要求することは、難きを強いるものである。ただ、担当職員においても、自ら自動車運転免許証の交付を受けているなど、官公署発行の免許証の体裁や記載内容についての一般的知識を十分に有している者であれば、たとえ初めて見る免許証であっても、それが偽造にかかることを疑うべき事情があるか否かの判断は可能である。

(二) 柴原は、無線従事者免許証をそれまで見たことはなかったが、昭和五三年に被控訴人の職員となり、以後平成二年の本件当時まで土井首支所で主に印鑑登録・証明事務を担当し、自ら自動車運転免許証の交付を受けており、それまでに自動車運転免許証、パスポート、クレーン免許証、船員手帳等の提示を受けて右事務を処理してきたうえ、無線について官公署発行の免許証があり、それが生涯免許であることを知っていたのであるから、本件免許証をもって、条例六条一項所定の「当該申請が確実に本人の意思に基づくものと認め」るか否かの判断をする資料の一つとして、要領にいう「官公署発行の写真貼付の各種免許証」に該当すると判断したのは正当である。

(三)本件免許証は、九州電波監理局長が発行した体裁がとられ、同局長名の押印があり、写真が貼付され、写真と台紙にかけて割印が押され、ラミネート加工されるなど形状、記載内容等に照らして、真正な無線従事者免許証と誤信してもやむをえなかった。これに加えて、本件免許証の写真の顔と甲野の顔が一致し、年齢も相応にみえたこと、甲野の態度が落ち着いていたことから、甲野を乙山本人と信じたのであって、田畑及び柴原に過失はなかった。なお、九州電波監理局に対し、電話又はファクシミリで、無線従事者免許証の体裁、記載内容及び免許証番号を告知して当該免許証の真否を照会したとしても、回答は得られなかったのである。

(四) 条例及び長崎市印鑑登録及び証明に関する条例施行規則(昭和四五年六月一六日規則第二二号。以下「規則」という。)では、登録印鑑と印鑑登録証をともに紛失した場合、印鑑登録証紛失届と印鑑登録廃止届を提出しなければならないように読めるが、いずれか一方の届出があれば印鑑登録は職権で抹消されることから、昭和六〇年度以降は印鑑登録廃止届のみを提出させる取扱いとし、印鑑登録廃止届に、規則にはない印鑑登録証の回収、未回収の欄を設け、登録印鑑廃止の理由欄の紛失の記載と併せて、印鑑の紛失と同時に印鑑登録証も未回収(紛失は未回収の一態様である。)であることを明確にしている。

(五) 窓口を訪れる市民の中には、住民票上、自分が属する世帯の世帯主がだれになっているのかを知らない者もあり、その場合には、担当職員が当該市民に質問して確認し、市民サービスの観点から、自ら訂正することもある。本件申請において、印鑑登録廃止届の世帯主氏名欄を柴原が訂正したのは右の取扱いによったものであり、また、印鑑登録申請書の世帯主氏名欄が訂正されていないのは、印鑑登録廃止届の審査においてすでに確認し訂正していたからである。

2  控訴人は損害を被ったか。

(控訴人の主張)

(一) 控訴人の代理人小柳雅司(以下「雅司」という。)は、平成二年四月二七日、司法書士浦川一孝の事務所(以下「浦川事務所」という。)において、乙山になりすました甲野との間で、乙山所有の本件土地を、代金三億九九八五万円、支払方法、同日限り八〇〇〇万円、同年五月一〇日限り七〇〇〇万円、同年九月三〇日限り二億四九八五万円の約定で買い受ける旨の契約を締結した。

(二) 控訴人は、右契約締結日に、今林に対し、右売買代金の一部として八〇〇〇万円を支払った。

(三) 控訴人は、平成七年三月二〇日、本訴につき原審で委任した訴訟代理人である弁護士二名に対し、弁護士費用として五〇〇万円を支払うことを約した。

(被控訴人の主張)

前記の本件土地売買契約締結前、株式会社サンケイ・エンタープライズ(以下「サンケイ」という。)の代表者である雅司と山下尚武(以下「山下」という。)は、本件土地を共同で購入し、仮登記後に本件土地を転売して、その利益を折半することを合意していたところ、右契約締結日である平成二年四月二七日、暴力団石本組の組長石本修二から山下、サンケイへと順次貸し付けられた八〇〇〇万円が浦川事務所に持ち込まれ、これが売買代金の一部として甲野に支払われたものである。右のとおり、控訴人は、本件土地の買主ではなく、八〇〇〇万円の出捐者でもない。本件土地に関する不動産売買契約書で控訴人が買主となっているのは、形式的名目的なものにすぎず、実体関係に符合しないものである。

3  本件申請に係る印鑑登録・証明事務の過誤と控訴人の損害との間に因果関係があるか。

(控訴人の主張)

わが国では、一般に、不動産売買、不動産賃貸借、消費貸借による金融取引等の重要な財産的取引がなされる場合には、契約が本人の意思に基づくことを確認する一方法として、印鑑登録証明書の提出が要求されることは、印鑑登録証明書の特質及び一般取引の経験則に照らして明らかであるから、重要な財産的取引に際し、本人の登録印鑑と印鑑登録証明書が提出されれば、当該取引は、本人の意思に基づいてなされるものであることが強く推測される。とりわけ、不動産取引の場合には、最終的に印鑑登録証明書と同証明書上の印影に合致する印鑑を押捺した書類がなければ、登記手続が不可能なのであるから、印鑑登録証明書の果たす役割は決定的というほどに大きなものがあり、殊に、不動産取引に仲介人や代理人が介在している場合には、本人の同一性及びその意思確認は、印鑑登録証明書の印影と合致する印影が登記関係書類に顕出されていることを確かめるのがほとんど唯一かつ決定的な方法である。したがって、本件の印鑑登録・証明事務の過誤と控訴人の損害との間には因果関係がある。

4  控訴人側にも過失相殺すべき過失があったか。

(被控訴人の主張)

仮に本件の印鑑登録・証明事務の過誤により控訴人が損害を被ったとしても、以下のとおり、控訴人側には極めて重大な過失があった。

(一) 本件土地の売買については、中尾直喜(以下「中尾」という。)が本件土地所有者の代理人と称して、雅司と交渉し、平成二年四月二二、三日ころまでには、両名間で売買契約の骨子を合意していたものであるところ、雅司は、不動産取引等を業とするサンケイの代表者であって、不動産取引の専門家であるうえ、中尾がブローカー的な仕事をしていて、暴力団との関係もある人物であることを知悉していたから、中尾の代理権について十分に調査確認すべきであったのに、これをしなかった。

(二) 本件土地は高額な物件であったから、買主としては、所有者本人に会うなり、電話をするなどして、売却意思や売却の動機等を調査すべきであったのに、これをしなかった。

(三) 雅司は、平成二年四月二七日、浦川事務所において、甲野と初めて会ったのであるから、売主本人であるか否かを当人に直接確認したり、登記済権利証の提示を求めるなどして、同人が真の所有者であるか否かを調査すべきであったのに、これをしなかった。

(四) 中尾が持参した委任状には、二〇〇〇万円の報酬を与えること、三〇〇万円を貸与することが記載されていたのであるから、雅司は、中尾と今林との関係について疑念と警戒を持って、右両名の言動の信用性等を調査すべきであったのに、これをしなかった。

(控訴人の主張)

雅司は、平成二年四月二〇日に若松方に赴いて甲野と接触するなど甲野が本件土地所有者の乙山本人であるかどうかについては十分に調査確認をしたから、控訴人側に過失はなかった。仮に控訴人側に何らかの過失があったとしても、前記3の印鑑登録証明書の果たす役割の大きさからすると、控訴人側の過失の程度は極めて小さいというべきである。

第三  証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  争点に対する判断

本件申請に係る印鑑登録・証明事務を行うにつき、田畑及び柴原に国家賠償法一条一項にいう過失があったか否かについて判断する。

一  証拠(甲第一号証、第二号証の一、二、第七号証の四、第一四ないし第一八号証、第一九号証の一、二、第二二号証、乙第一ないし第三号証、第六ないし第一二号証、第一四、第一六号証の各一、二、第一七、第七九、第八〇号証、原審証人田畑祐子及び同柴原洋介の各証言、当審における九州電気通信監理局に対する調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  甲野(五〇歳代半ば位の男)は、平成二年四月二七日午前一一時五〇分ころ、土井首支所を訪れ、田畑がカウンター内から対応した。今林は、田畑に対し、「印鑑をなくしたので新規に登録をしたい。併せて、今日、印鑑登録証明書もいる。」というので、田畑は、「本人さんですか。印鑑登録証はどうされましたか。」と質問し、今林は、「本人です。印鑑登録証もなくしました。」と答えた。田畑が、「まず廃止届を出してもらわなければいけませんが、本人であることを確認できる身分証明書を持っていますか。」と尋ねると、甲野は、「これを持っている。」といって、本件免許証を差し出した。甲野は、通常の申請人と特に変わった点はなく、落ち着いた様子に見えた。

田畑は、本件免許証を受け取って、これに貼付された写真と甲野が同一人物であること、本件免許証が無線従事者免許証であること及び写真と台紙にかけて割印が押してあることを確認したが、無線従事者免許証は初めて見る免許証であったため、印鑑登録・証明事務に長い経験を有する柴原のもとに行き、同人に、本件免許証を渡して、「この免許証で本人であることを確認していいか。」と尋ね、申請者を教えるために、待合椅子のあたりにいた甲野を指し示した。

柴原は、かつて、自動車運転免許証のほか、パスポート、船員手帳及びクレーン免許証で本人の確認をしたことはあったが、無線従事者免許証については、そのような免許証があることとこれが生涯免許であることを知っていたのみで、現物を見るのは初めてであった。しかし、柴原は、本件免許証を見て、官公庁が発行したものであること、公印が押されていること、写真と台紙にかけて割印が刻されていること及びラミネート加工されていることが確認できたので、「この免許証で確認してよい。」と答えた。

田畑は、カウンターに戻り、本件免許証に記載してあった名前に従って「乙山さん」と呼びかけ、カウンターに来た甲野に対し、カウンター下に置いてある印鑑登録廃止届の用紙を手渡し、「廃止届、印鑑登録申請書、印鑑登録証明書交付申請書を記載してください。」といった。田畑は、甲野が記載台で右各用紙に記載している間に、コピー機で本件免許証を複写し(乙第六号証は本件免許証の写し。その写しが別紙1)、本件免許証とその写しを柴原の机の上に置いて、同人にその後の事務処理を引き継いだ。

甲野は、記載台からカウンターに来て、柴原に対し、所定事項を記入した右廃止届等三通の書面と印鑑(印影)を登録するための印章(印材が白い象牙様の印顆)を差し出した。提出された印鑑登録廃止届(乙第七号証。その写しが別紙2)には、「作成年月日」、登録者の、「住所」「氏名」「生年月日」及び「世帯主氏名」、「廃止の理由」の各欄に記入があり、「登録印鑑」欄に印鑑の押捺があった。また、印鑑登録申請書(乙第八号証。その写しが別紙3)には、「作成年月日」、登録者の、「住所」「氏名」「生年月日」及び「世帯主氏名」の各欄に記入があり、「印鑑」欄に印鑑の押捺があった。さらに、印鑑登録証明書交付申請書(乙第九号証。その写しが別紙4)には、「作成年月日」、登録者の、「住所」「氏名」「生年月日」及び「世帯主氏名」、「交付枚数」の各欄に記入があった。

2  柴原は、まず、印鑑登録廃止の事務を行うため、コンピューターの端末機で住民票を打ち出した。このとき、乙山の印鑑が本庁に印鑑登録されていることが分かった。そして、柴原は、住民票の記載事項と、甲野が提出した印鑑登録廃止届及び本件免許証の各記載事項とを照合し、世帯主の氏名以外の他の記載事項が一致することを確認した。世帯主の氏名については、住民票には「乙山春男」と記載されているのに、印鑑登録廃止届には「乙山春夫」と記載されていたため、柴原は、甲野をカウンターに呼んで、「世帯主は春男になっていますよ。」といったところ、甲野が、「そうだった。そうだった。」と答えたので、柴原は、本人に間違いないと判断し、自ら、別紙2の世帯主氏名欄のとおり、「春男」を「春夫」と訂正した。照合を終えた後、柴原は、乙山の印鑑が本庁に登録されていたため、印鑑登録廃止届に「印鑑原票を消除ください」というゴム印を押したうえ、これをファクシミリで本庁に送付し、さらに、別紙2のとおり、印鑑登録廃止届の「登録番号」「住民票照合」「住民票印鑑番号まっ消」「印鑑登録証」の各欄に、所定事項を記入した。

ついで、柴原は、印鑑登録申請の事務に移り、住民票と印鑑登録申請書との各記載事項を照合し、世帯主の氏名以外は一致することを確認した。世帯主の氏名については、印鑑登録廃止届と同じ不一致であったが、印鑑登録廃止届で訂正をしていたので、印鑑登録申請書の世帯主氏名欄は、訂正しなかった。照合の後、柴原は、印鑑原票に、住所、氏名、生年月日を書き込んで、甲野から受け取っていた印章をもって印鑑欄に押印をし、右印鑑の登録番号を記入して、印鑑登録を行い、続いて、右印鑑の印鑑登録証を作成した。そして、柴原は、別紙3のとおり、印鑑登録申請書にも、「確認の方法」「登録番号」「住民票照合」「登録番号記載」の各欄への所定事項の記入と、欄外への「同日印鑑登録廃止届受理」というゴム印の押捺をした。右「確認の方法」欄については、柴原は、最初「免許証」を丸で囲んだが、「免許証」は自動車運転免許証で確認した場合に限る取扱いであったため、これを二重線で抹消して「身分証明書」を丸で囲んだうえ、その内容を明らかにするため「アマチュア無線免許」と書き込んだ。

最後に、柴原は、印鑑登録証明書交付申請書と住民票との各記載事項を照合し、世帯主の氏名以外は一致することを確認した。世帯主の氏名については、印鑑登録廃止届と同じ不一致があったが、印鑑登録廃止届で訂正していたので、印鑑登録証明書交付申請書の世帯主欄は、訂正しなかった。照合の後、柴原は、印鑑登録証明書交付申請書に登録番号を記入し、印鑑登録証明書を発行して、午後〇時一〇分ころ、これを甲野に交付した。

3  無線従事者免許証はアマチュア無線技士等の資格を有する者に交付される更新のない生涯免許証であって、電話級アマチュア無線技士等の資格を有する者には所轄地方電波監理局長(昭和六〇年四月一日以降は局名変更のため、所轄地方電気通信監理局長)名で発行されている。本件免許証は、電話級アマチュア無線技士の資格を有する者に、九州電波監理局長が昭和五九年一月一九日付で発行した無線従事者免許証の体裁をとっており、九州電波監理局長なる印影が顕出され、貼付された写真と台紙にかけて割印が押してあり、記載事項は別紙1のとおりであって、全体がラミネート加工されていて、体裁及び記載事項は、真正な無線従事者免許証と同じであった。しかし、本件免許証の写しと真正な無線従事者免許証との間には、控訴人が指摘するように、概ね、別紙5記載のような相違点がある(割印については、原審証人田畑祐子の証言により、コピー機の性能から台紙部分が写らなかったものと認められる。)。

なお、九州電気通信監理局(変更前の名称は電波監理局)は、無線従事者免許証の体裁及び記載内容の真否について電話又はファクシミリでは回答しない取扱いをしている。

4  条例一〇条は、「印鑑の登録を受けている者は、印鑑登録証を失ったときは、直ちに市長に届け出なければならない。」と規定し、規則七条八号は、右の印鑑登録証紛失届の様式を規定する。さらに、条例一一条二項は、「印鑑の登録を受けている者は、登録を受けている印鑑を失ったときは、届書に印鑑登録証を添えて、自ら市長に当該印鑑の登録の廃止を届出なければならない。」と規定し、規則七条九号は、右の印鑑登録廃止届の様式を規定する。右によると、条例では、登録印鑑と印鑑登録証の両方を紛失した場合には、印鑑登録証紛失届と印鑑登録廃止届の両方を提出することが予定されているのであるが、条例一二条五号、六号により、印鑑登録証紛失届又は印鑑登録廃止届のいずれか一方が提出されれば、職権で印鑑登録を抹消することができることから、被控訴人においては、昭和六〇年度以降、印鑑登録廃止届だけを提出させる取扱いを事務処理慣行とし、印鑑登録廃止届に規則所定の様式にはない「印鑑登録証」欄を設け、「回収」「未回収」のいずれかを丸で囲み、「廃止の理由」欄の「紛失」を丸で囲むのと併せて、登録印鑑と印鑑登録証をいずれも紛失したことを明らかにしている。

条例六条一項は、「市長は、第四条第一項の申請(印鑑登録の申請)があったときは、当該申請が確実に本人の意思に基づくものであると認めたものを除き、郵便その他市長が適当と認める方法により当該申請を行った者に対して自己の意思に基づくものかどうかを文書で照会し、(以下省略)」と規定し、要領は、右規定にいう「当該申請が確実に本人の意思に基づくものと認めたもの」とは、登録申請者本人が窓口に出頭し、次の①又は②によって本人であることを確認できた場合を原則とするとしている。そして、右の①又は②として、①官公署発行の写真貼付の各種免許証(自動車運転免許証等)及び官公署、会社、工場等が発行した所定様式による写真貼付の身分証明書等の提示があったとき、貼付された写真には割印が押され原則として三年以内のものに限る。②市長、助役、収入役、部長、課長、支所長、主管課(支所)の係長、主任及び印鑑事務担当者が面識があり、申請者本人を熟知しているとき。とする。さらに、条例一六条は、「市長は、印鑑の登録又は登録証明の事務に関し、その命じた職員をして、必要な範囲において関係者に対して質問し、又は必要な事項について調査させることができる。」と規定する。

条例七条は、「市長は、第四条第一項の登録申請を受理したときは、ただちに印鑑票を作成し、これに登録番号を付して、安全かつ確実な方法によりこれを収録しなければならない。」と規定し、要領は、登録申請があった場合に確かめてから受理すべき事項のひとつとして申請書記載事項の確認を掲げ、これにつき、「記載事項は住民票又は外国人登録原票と照合して、住所、氏名、生年月日等に誤りがないか、誤りがあった場合は適宜質問して、本人の意思を確認すること、この場合記載の訂正はなるべく本人に行わせて訂正印を押させること。」としている(規則四条一項も、「申請書等の提出があったときは、当該申請書等に記載された住所、氏名、生年月日等を住民基本台帳又は外国人登録原票と照合し、相違ないことを確認して受理するものとする。」と規定する。)。ただ、被控訴人の事務処理上の慣行では、申請人が、自分の属する世帯の住民基本台帳(住民票)上の世帯主の認識があいまいな場合には、担当職員が、当該申請人に確認して、市民サービスという面から自ら訂正するということもあった。

なお、被控訴人においては、平成二年度中に、登録印鑑と印鑑登録証の両方を紛失したとして印鑑登録廃止届出がされた件数は、本庁で六二六件、土井首支所で一四件、このうち当日に印鑑登録申請がされ登録手続が完了した件数は、本庁で二五一件、土井首支所で五件、さらに、このうち当日に印鑑登録証明書交付申請がされ印鑑登録証明書を交付した件数は、本庁で二二二件、土井首支所で四件(本件を含む。)であった。

二  右事実に基づいて検討する。

1 印鑑登録証明書は、不動産売買、金融取引等重要な財産上の取引や登記、登録申請等の公的手続において、文書の作成名義の真正、本人の同一性、代理人の権限の存否等を確認する重要な資料として使用されるものであるから、本人の関知しない間に偽りの印鑑登録がなされて印鑑登録証明書が発行されるようなことがあれば、本人や取引当事者等に損害を被らせることもありうる。一方、印鑑登録証明書は、財産上の取引にあってもこれが唯一の証明手段ではなく、あくまで一資料にすぎないばかりか、財産上の取引のほかにも、公正証書作成嘱託、自動車の登録及び商業登記など多くの目的に使用されるものである。しかも、印鑑登録・証明制度は、大量事務の簡便、迅速な処理によって維持されているものであって、住民へのサービスという一面も看過できない。以上の諸点にかんがみると、本件のごとき本人の同一性確認について、印鑑登録・証明事務の担当職員に国家賠償法一条一項にいう過失があったというためには、平均的な印鑑登録・証明事務の担当者であれば右の同一性につき当然に疑念をいだいたであろうと考えられるのに、事務担当者の職務行為に合理性が欠けていたために、疑念をいだかないまま事務処理を遂行したと認められることを要すると解するのが相当である。

2  土井首支所で印鑑登録・証明事務を担当していた田畑及び柴原は、本件免許証を、乙山本人に交付された、真正な無線従事者免許証と信じ、本件免許証に貼付された写真が甲野の写真と判断できたことから、甲野を乙山本人と誤信して、本件申請に対する事務処理を遂行したものであるところ、以下、右の事務処理の過程において、田畑及び柴原が、甲野と乙山本人との同一性について疑念をいだかないまま事務処理を遂行したことにつき右1に判示の過失があったか否かを検討する。

まず、本件申請は、印鑑登録の廃止、新しい印鑑の登録及び印鑑登録証明書の交付が同時に求められたのであるが、前記一の4のとおり、右のような事例は被控訴人において稀な事例というわけのものでもなかったのであるから、これらが同時に申請されたからといって、平均的な事務担当者であれば当然に甲野と乙山本人との同一性につき疑念をいだいたであろうというようなことはいえない。

次に、本件免許証は、真正な無線従事者免許証とは、微細な点に多数の異なった部分があるものの、電話級アマチュア無線技士の資格を有する者に、九州電波監理局長が昭和五九年一月一九日付で発行した無線従事者免許証の体裁をとっており、九州電波監理局長なる印影が顕出され、貼付された写真と台紙にかけて割印があり、記載事項自体は真正な無線従事者免許証と同一であって、全体がラミネート加工されていたから、平均的な事務担当者がこれを偽造免許証であると見破ることは困難であったといわざるをえない。右の点に関し、控訴人は、被控訴人市長が、印鑑登録・証明事務担当者の手元に無線従事者免許証の見本を備え付けておけば、これらを見比べることにより偽造であることを看破できたはずであると主張する。しかし、本件申請では、たまたま無線従事者免許証の提示であったが、要領は、官公署発行の写真貼付の各種免許証及び官公署、会社、工場等が発行した所定様式による写真貼付の身分証明書等を本人確認の資料とすることを許容しているのであって、これらの確認資料の見本をすべて備え付けることは不可能というべきであり、自動車運転免許証のごとく普遍的でないものの場合が事故となりやすいことからして、右のような備付けをしなかったことをもって過失があったことの根拠とすることはできない。また、控訴人は、九州電波監理局に本件免許証の真偽を電話又はファクシミリで照会すべきであったと主張するが、本件免許証の体裁及び記載事項はもとより、後記のとおり今林の顔貌及び態度にも、何ら疑念をいだかせるような点はなかったのであるから、右の照会をしなかったことをもって田畑及び柴原の職務行為が合理性を欠いていたとはいえない。なお、仮に電話又はファクシミリで照会したとしても、前記一の3末段に記載の取扱い例からいって、九州電波監理局がこれに応じなかったであろうことはたやすく推認できるところである。

さらに、甲野本人についても、本件免許証に貼付された写真の人物と同一人物であり、外見上も五〇歳代半ばという印象であって、本件免許証に記載された昭和六年八月一四日生まれの男性という点でほぼ一致していたうえ、態度も通常の申請人と特に変わった点はなく、落ち着いた様子であったというのであるから、甲野と乙山本人との同一性について疑念をいだかせるような事情はなかったというべきである。控訴人は、本件免許証の発行年月日は昭和五九年一月一九日であるから、要領が本人確認用の写真は三年以内に撮影したものに限定していることに違反するし、また、本件免許証の発行年月日から本件申請時まで六年以上も経過していたにもかかわらず、写真と目の前の甲野との間に年齢差がないことから、右写真に異常(免許証貼付の写真は本件申請時に近い時期に撮影されたものではないかとの疑念)を感じたはずであると主張する。しかし、免許証の提示は、要するに、本人の同一性を確認する手段であって、現在使用されている免許証で、同一性が確認されるものであれば足り、現に、要領も、三年以内に撮影した写真を原則にしているにとどまるのであるから、本件免許証が発行から三年以上を経過していたことから、直ちに、田畑及び柴原の職務行為に合理性が欠けていたことにはならないし、六年余は、年齢差がないことに不自然さを感じるのを当然とする年月とも考えられない。

右に検討してきたところからすれば、田畑及び柴原が、本件免許証の提示によって、甲野を乙山本人と誤信したことはやむをえなかったものといわざるをえない。そして、田畑及び柴原は、甲野が乙山本人であることを前提に、通常どおり、条例、規則、要領及び事務処理慣行に従って事務処理を行ったものであって、その過程においても、特段、甲野が乙山本人ではないのではないかとの疑念をいだくような事情があったとは認められない。これに関し、控訴人は、登録印鑑と印鑑登録証の両方を紛失した場合であるのに、印鑑廃止届とは別に、印鑑登録証紛失届を提出させなかったこと、印鑑登録廃止届の世帯主氏名欄を柴原の手で訂正したことをもって、柴原に過失があったことの根拠とする。しかし、これらの事務処理慣行はそれ自体合理性を欠くとはいえないばかりでなく、本件申請のように巧妙に仕組まれた不正事案においては、印鑑登録証紛失届をも提出させても本人の同一性確認の手段としては何ら有効とは考えられないし、また、世帯主氏名欄を柴原が記載したのは、甲野の言動に騙されて同人を乙山本人と誤信していたからであって、ここには柴原に通常とは異なる対応が求められる事情は見出されないのである。以上の次第で、田畑及び柴原の職務行為に合理性が欠けていたために、同人らが、甲野と乙山本人との同一性につき疑念をいだかないまま事務処理を遂行したとの過失を基礎付ける事実は何ら認めることができず、田畑及び柴原に国家賠償法一条一項にいう過失があったということはできない。

第五  結論

よって、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、右と結論を同じくする原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官秋元隆男 裁判官池谷泉 裁判官川久保政德)

別紙〈省略〉

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